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地球からの警告~ 溶けゆく氷河と私たちの未来 ~

Discovery
2025年6月6日
私たちの足元で、地球は静かに、しかし確実に警鐘を鳴らしています。その声の一つが、世界各地で急速に進む氷河の融解です。かつては永遠の存在と思われた壮大な氷の世界が、気候変動の波に洗われ、今まさに姿を消そうとしています。これは遠いどこかの話ではなく、私たちの暮らしと未来に直結する喫緊の課題なのです。
地球からの警告 〜 溶けゆく氷河と私たちの未来 〜 Satellite view of the landslide at Blatten, imaged on 30 May 2025 / Wikipedia

スイス・アルプスの衝撃 ~現実となった氷河崩落~

2025年5月28日、スイス南部の風光明媚なレッチェンタール渓谷で、その警告は現実のものとなりました。午後3時半頃、ビルヒ氷河の大部分が轟音とともに崩れ落ち、大規模な土石流を引き起こしたのです。麓のブラッテン村は甚大な被害を受け、多くの家屋が倒壊し、1名の方が行方不明となる事態に至りました。[1]

スイス公共放送(SRF)やSNSに投稿された映像には、まるで意志を持ったかのように、大量の土砂が巨大な砂塵を巻き上げながら谷を猛スピードで流れ下る、息をのむような光景が記録されていました。この崩落の衝撃はマグニチュード3.1の地震を引き起こすほど凄まじいものだったのです。[2]

災害の激しさに比して人的被害が最小限に食い止められたのは、この氷河崩落は1ヶ月以上も前から専門家によって予測され、監視体制が強化されていたからです。そして、災害発生の数日前、氷河上部の尾根に変動が確認されたことを受け、ブラッテン村の住民約300名と全ての家畜が事前に安全な場所へ避難していました。この迅速かつ的確な判断が、多くの命を救ったのです。

この事例は、氷河変動の監視と早期警戒システムの重要性を改めて浮き彫りにしました。しかし同時に、気候変動が私たちの想像を超える速さで、このような大規模な自然災害のリスクを高めているという厳しい現実も突きつけています。

地球からの警告 〜 溶けゆく氷河と私たちの未来 〜 在りし日のブラッテン村

加速する氷河融解 ~地球が発するSOS~

今回の氷河崩壊について、スイス開発協力機構の災害リスク削減アドバイザー、アリ・ノイマン氏は、気候変動が氷や雪に覆われた地域全体に影響を与えたことは明らかだと指摘します。

その言葉を裏付けるように、世界の氷河は驚くべき速さで失われています。また、スイス氷河モニタリングネットワーク(GLAMOS)のディレクター、マティアス・フス氏は、「このまま地球温暖化が進めば、近い将来スイスの氷河はほぼ全て消滅するだろう」と強い警告を発しています。その影響は土砂災害や洪水の頻発、主要河川の水量減少と深刻な水不足といった形で、私たちの社会基盤を揺るがしかねないと訴えています。

マティアス・フス氏は、この危機的状況を「私たちは既に氷河をレモンのように絞り切ってしまった」という言葉で表現しています。この比喩は、私たちが自然の恵みを享受し尽くし、もはや後がない状況にあることを痛烈に示唆しています。[3]

氷河が消える日 ~私たちの暮らしへの多大な影響~

「GlaMBIE(Glacier Mass Balance Intercomparison Exercise)」の最新の研究によれば、地球上の氷河は毎年平均して実に2700億トンもの氷を失っており、さらに減少スピードが過去10年間で約36%も加速しているというのです。[4]

では、もしこのまま世界中の氷河が失われてしまったら、どのような事態が私たちの身に降りかかるのでしょうか。

氷河融解は、氷河湖決壊洪水や土石流といった、大規模な自然災害のリスクを高め、今回のスイスの事例のように、山岳地帯に暮らす人々だけでなく、下流域の広範囲な地域にも影響が及びます。今後、その頻度は急速に増していくでしょう。そして溶け出した氷河の大部分は海へと流れ込み、全地球的な海面上昇を引き起こすでしょう。沿岸部の低地に位置する都市や小さな島国では、高潮や浸水の被害が深刻化し、大勢の住む場所を追われた「環境難民」が発生します。
さらには、アジアや南米の多くの地域では、氷河が溶け出す水が貴重な飲料水や農業用水の源となっているため、これらの「天空の貯水池」が失われれば、深刻な水不足を引き起こし、食糧生産に壊滅的な打撃となります。

地球からの警告 〜 溶けゆく氷河と私たちの未来 〜 観光地としても有名なスイス・ローヌ氷河の氷河湖。近年の温暖化による氷河後退によって決壊が危惧されている。

このような深刻な状況に対し、私たちはただ手をこまねいているわけではありません。最新のテクノロジーを活用した防災・減災技術は日々進化しています。水位計や土石流センサー、AIを駆使した詳細な気象予測といった技術は、災害の事前予測や警報システムを通じて被害を軽減するために不可欠なツールとなっています。
私たち株式会社拓和もまた、⻑年にわたり培ってきた⽔位計をはじめとする各種防災に関するセンシングの技術を核として、この地球規模の課題に貢献できるソリューションの開発に取り組んでいます。

例えば、温暖化によって生まれ、決壊のリスクをはらむ「氷河湖」の状態をリアルタイムで監視するために、ドローンを使って空から容易に設置できる「⼩型⽔位観測ブイ」を開発しました。このブイは、湖の⽔位変動を精密に捉え、決壊に至る危険な兆候を事前に検知することを可能にします。
さらに、氷河やその周辺の地盤状況を確認するために地下の微細な⽔の流れを⾳で捉える「地下流⽔⾳測定装置」といったユニークな技術も有しています。

これらの最新技術を組み合わせた監視ソリューションによって、氷河湖決壊やその引き⾦となる⼟⽯流の発生を正確に検知し、地域社会へ迅速な警戒・避難情報を伝達する体制構築に貢献できると信じています。

ただし、これらの技術は⼈命や財産を守る上で極めて重要ではあるものの、あくまで「対症療法」であるという認識も忘れてはなりません。問題の根本原因である地球温暖化そのものを抑制しなければ、災害の脅威はますます増⼤していくでしょう。技術による監視や予測は、温暖化を止める努⼒と両輪で進めていく必要があります。

未来のために、今こそ行動を ~私たち一人ひとりの選択~

産業革命以降、私たちの発展は自然への配慮を欠いた利⼰的なものでした。しかし、今その限界が地球温暖化による雪氷災害など、地球規模の問題として顕在化しています。これらは、もはや猶予がないという地球からの悲痛な警告です。私たちは今こそ「利他の心」で自然と共生し、具体的な行動を始めなくてはいけないのではないでしょうか。

スイスの研究者が「氷河を救うには地球温暖化を止めるしかない」と語るように、根本的な解決策は温室効果ガスの世界的な大幅削減です。道は険しいかもしれません。しかし、未来の世代に美しい地球を引き継ぎ、持続可能な未来を築くために私たちが今日から始められることはあります。地球温暖化や環境問題について積極的に学び、正しい知識と危機感を持ち、家族や友人、同僚と共有すること。そして私たち一人ひとりが学びから得た知識を元に具体的な行動を起こすことです。一人ひとりの小さな行動が大きな力となり、必ず地球の未来を変えることができます。
そう信じて、共に歩みを進めましょう。

【引用・参考資料】

[1] SWI(スイス放送協会国際部)2025年5月28日「スイス南部で氷河が崩壊 土石流がふもとの村を飲み込む」
https://x.gd/hiz2c

[2] SWI(スイス放送協会国際部)2025年5月28日 ブラッテンを襲う巨大な土石流の映像
https://www.srf.ch/play/tv/-/video/-?urn=urn:srf:video:c9cd629e-2999-43b7-9e6e-e60b4749fbde

[3] SWI(スイス放送協会国際部)2025年4月21日 「スイス氷河の終焉が世界に及ぼす影響」
https://x.gd/KYIt8

[4] ナゾロジー 2025年2月21日 「科学者「衝撃的だ」――世界の氷河の融解が過去10年間で36%加速」
https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/171413

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